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最新課題の情報共有、意見交換を積み重ねていく場としてのアライアンス

日系企業が見る国際アライアンス加盟の意義とその背景②

前稿ではグローバルな金融機関を取り巻く環境と国際アライアンスの最新動向について見た。本稿では第一生命が2021年2月にネットゼロ・アセットオーナーアライアンス(NZAOA)にアジアのアセットオーナーとして初めて加盟した経緯や、NZAOAの活動内容についてご紹介させていただく。COP26に向けたグローバルなRace to Zeroの流れの中で、今後、日本の金融機関のアライアンス加盟に少しでも参考となれば幸いである。


第一生命の気候変動対応とNZAOA加盟への道のり

気候変動対応は今や日本の金融機関にとっても経営上避けて通れない重要課題となっている。2020年の定時株主総会において、みずほフィナンシャルグループがNGOから受けた気候変動への取組み強化に関する株主提案が賛成率34.5%を集めたことが大きな衝撃をもって受け止められたが、2021年においても三菱UFJフィナンシャル・グループに類似の株主提案が行われるなど、本邦金融機関への投融資ポートフォリオのカーボンニュートラル化へのプレッシャーは強まっており、取組みにやや受け身であった本邦金融機関も、いよいよ本腰を入れざるを得ない状況となっている。

このような状況下、第一生命は気候変動を含む環境問題には早くから取り組んできた。それは第一生命が生命保険会社であり、将来世代に資産を引き継ぐ事業であることから、次世代に豊かな地球環境を残すことが重要な使命のひとつだと考えているからである。このため、再生可能エネルギー発電事業やグリーンボンドなどへの投融資は2010年代前半から取り組んできたほか、石炭火力発電や石炭採掘事業等のプロジェクトファイナンスへの投融資も早々に禁止しており、これらのプロジェクトへの投融資残高はゼロとなっている。

また国際的なイニシアティブへの参加についても、2018年9月に国内生保で初めてTCFDへ賛同し、2019年8月にはClimate Action100+およびRE100(Renewable Energy 100%)にもいち早く加盟するなど積極的に対応してきた。こうした中で、NZAOAについても設立当初より存在は認識していたが、欧州のアセットオーナー中心で構成されておりやや敷居が高い印象があったことや、加盟すれば温室効果ガス(GHG)高排出セクターのダイベストメントの必要性が生じるのではないかという懸念があったこと、また弊社自身のポートフォリオのGHG排出量の計測が完了していなかったことなどから、加盟についての本格的検討は進んでいなかった。

しかしながら、グローバルに脱炭素化への動きが加速する中、金融機関が投融資ポートフォリオのカーボンニュートラルを求められる流れは遅かれ早かれ日本にも波及すると予想されたことや、ポートフォリオのGHG排出量計測にも目処がたったことなどから、むしろグローバル最先端情報を収集して対応を進めることや、国際的フレームワーク議論の中で、日本の機関投資家としての立場を訴えていくことのメリットの方が大きいと考え、2021年2月にNZAOAへの加盟に至ったのである。また、菅政権による2050年までのカーボンニュートラル宣言により、日本企業のネットゼロに向けた動きの本格化が予想されたことも決断を後押しした大きな要素の一つでもある。


NZAOAの活動内容と日本への期待

それでは具体的にNZAOAがどのような活動を行っているのかをご紹介したい。NZAOAでは加盟後1年以内に定められた4つの目標のうち少なくとも3つを提出する必要がある。4つの目標とは、①2025年まで(2019~2024年の5年間)にアセット毎のサブポートフォリオ(上場株式・公募社債・不動産)のGHG排出量を▲16~▲29%削減する目標、②高排出セクター毎の原単位削減目標、③排出量の多い投資先上位20社またはポートフォリオ全体の排出量の65%をカバーする先へのエンゲージメント目標、④低炭素社会への移行を後押しする気候変動ソリューション投資目標、である(図表参照)。

「ネットゼロ」を掲げる国際アライアンスは2030年の中間目標設定を促すものが多いが、NZAOAは2025年という比較的短期の目標設定が求められている点で、他のイニシアティブと比較して野心的であるのが特徴である。

NZAOAでは①モニタリング・レポーティング&ヴェリフィケーション(MRV)、②エンゲージメント、③ポリシー、④ファイナンシングトランジション、⑤コミュニケーション、⑥リクルートメント、の6つのワーキンググループ(WG、NZAOAではWorking Trackと呼んでいる)が設置されており、それぞれのWGで実務的な議論が行われている。例えば、①のMRVのWGではアセット別のGHG排出量計測基準などが議論されており、2021年は国債やインフラ、2022年は融資についての計測基準が検討される予定であるなど、今後詳細が決められていく段階にある。


このように、NZAOAの活動は最初から確立された厳格な基準や目標のもとに進捗管理が行われるというよりは、今後、スタンダードとなっていくと思われる基準の策定プロセスに参加したり、グローバルに議論されている情報を共有したりすることが中心であり、幅広く意見交換の場が提供されているというのが実態である。

また、高排出セクターのダイベストメントをする必要が生じるのではないか?という懸念であるが、NZAOAとしてもダイベストメントは推奨しておらず、セクター内の高効率な企業を相対的に選好することや、企業へのエンゲージメントやトランジションファイナンスを通じて排出量削減目標の積み増しを後押しすることを優先していることから、急激なポートフォリオの入れ替えは想定されていないと言える。

現在、NZAOAで議論されている大きなトピックの一つは、アライアンスメンバーの拡大であり、中でも特に日本、中国、韓国などのアジア諸国の参画をいかに促していくか、ということである。日本、中国、韓国はいずれも2020年にカーボンニュートラルの目標にコミットしており、こうした動きは歓迎すべき第一歩として国際的にも評価されている。しかし、アジア地域は依然として石炭火力への依存度が高い地域と見なされており、カーボンニュートラルを目指すうえで避けて通れない「石炭からの脱却」において、アジア諸国への働きかけが焦点であると捉えられている。こうしたことから、「ネットゼロ」を目指すアライアンスへの本邦金融機関の参画への期待と関心は極めて高い。現時点で「ネットゼロ」アライアンスに加盟している本邦金融機関の数はまだ少ないが、気候変動問題は地球上の全ての国の金融機関や企業が対処していくべき課題であり、今後の日本の金融機関の積極的な参加が求められよう。

気候変動問題は投融資ポートフォリオやビジネスモデルに影響を与える重大なリスクであると同時に機会にもなりうる。気候変動問題に対応していくことは金融機関にとって基本的かつ重要な社会的責任の一つであり、中長期的には自身や投融資先の企業価値やサステナビリティ向上にもつながるものであることから、前向きに対応していくべきであると言えよう。



石井 博子
第一生命保険株式会社
責任投資推進部長



日系企業が見る国際アライアンス加盟の意義とその背景 シリーズ①
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