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動物愛護ではない、人と環境のためのアニマル・ウェルフェア

動物愛護ではない、人と環境のためのアニマル・ウェルフェア

by Arisa Kishigami | August 12th, 2019

「アニマル・ウェルフェア」と聞いて、第一に連想するものは何か。

RI記事 ‘How can investors accelerate company action on farm animal welfare?’ において、今年2月に公表された第7回アニマル・ウェルフェアに関する企業のグローバル・ベンチマーク、 Business Benchmark on Farm Animal Welfare (BBFAW)の結果が公表された。それによると、ビジネス戦略の中枢にアニマル・ウェルフェアを掲げている企業数は2012年比で3倍に増加しており、対象企業のうち43%において役員や管理職レベルでアニマル・ウェルフェアへの明確な監督責任があるなど、進歩が確認されている。

しかし、レポートの中身を更に読んで行くと、調査対象となった日本企業5社が、いずれも最も低い評価段階にあることが確認される。果たしてこの状況は気に留めるべきものであろうか。

「オーガニック」や「非遺伝子組み換え食品」という言葉に多少聞き覚えはあっても、「アニマル・ウェルフェア」は聞きなれない、または一部の動物愛護者が気にする内容、と思う人もいるだろう。「アニマル・ウェルフェア」は決して動物の「ウェルフェア」だけではなく、私たち人間の健康、そして企業の成長、消費者との関係にも大きく結びつき得るものである。

例えば、過度な集約農業と抗生物質の多用の悪循環が挙げられる。私たちは常日頃、抗生物質を処方された時以外は摂取せず、処方された場合は飲み切ることを勧められる。過度の使用や雑な管理によって病原菌によるその抗生物質への耐性が出来てしまうことを避けるためだ。

しかし、世界中で生成されている抗生物質の多くが家畜によって摂取されてきている。RI記事 ESG Frontiers: Meat: An industry whose impacts are vast’ に言及の通り、米国で生成されている抗生物質の約70%が家畜用に利用されている。集約型の飼育の場合、至近距離の生活により病気が蔓延する危険性も高いために、治療用ではなく予防用として抗生物質があ大量にエサに注入される頻度も高くなっている。

集約型の家畜農業をやめることによって、密閉空間に夜ストレスと「薬漬け」の状態から家畜を開放すると共に、農家の抗生物質にかかる過度なコストを下げ、我々の抗生物質の間接摂取量を減らし、耐性を持つ強力な病原菌が発達する危険度を避けることが出来ると考えられる。

BBFAWのベンチマーク では、35の評価項目から構成されており、こうした集約農業、遺伝子組み換え食品や成長促進剤や予防抗菌剤の使用などの項目に関する各企業のスタンスを公開することも求められている。

頭では分かっていても、例えば養鶏場をケージ飼育から平飼いに変更するには初期投資を免れることはできず、現場の家畜農家としてはそのメリットが見えないことも多いだろう。そのため、サプライ・チェーンを伝っての協力と食品関連企業は気付き始めている。

BBFAWベンチマークで2番目に高い段階の評価を得ているユニリーバー社は、2020年までに全て農作物の原材料をサステナブルに調達することを Sustainable Living Plan の中で掲げている。しかし、直接的に農業に携わっていることがほとんどないため、その目標を達成するには多層に渡って広がるサプライヤーとの連携が鍵となる。

その取組みは、卵を主な原材料とするマヨネーズ商品にも及んでいる。Hellman’sマヨネーズは、世界一のブランド力を持つマヨネーズ商品だが、「良質な卵」、つまり平飼い卵のみを原材料にしていることを200万ポンド(2億7千万円)相当の資金を投入して、積極的に消費者への啓蒙を兼ねたマーケティング行った。(The Business of Farm Animal Welfare, Chapter 20: Case Study, Unilever and farm animal welfare)その結果、Hellman’s マヨネーズによる売り上げと 市場シェアを上げることとなった 。また、この消費者行動の変化に気づいたその他のマヨネーズブランド、スーパーも徐々に平飼い卵へと、マヨネーズ業界での卵の調達改革の発端となった。
「マヨネーズ」という一つの商品における原材料調達、個別商品のブランディング、そして販売の三つが一体となって「アニマル・ウェルフェア」による好循環をもたらした事例と言えるだろう。しかし、サステナビリティへのコミットメントが高いユニリーバー社でさえ、一夜にして得られた成果ではない。ユニリーバー社であっても、現場の家畜農家にとっては数多あるうちの一つの取引先に過ぎない場合も多く、目先の収支とのジレンマに苦しむ農家たちと共に実行に移すには絶え間ない農家、政策決定者、その他のプレイヤーとの長い年月での対話を必要とした。

こうした努力を後押しできるのは、長期的な好循環を理解し、応援できる投資家の存在だ。2019年7月時点では、2.3兆英国ポンドの運用資産高を代表する29の機関投資家がBBFAWの取組み賛同し、家畜のアニマル・ウェルフェアへの取り組みを進めるために対象企業への 対話を行っている

同7月6日に東京で行われたアニマル・ウェルフェアに関するシンポジウムが AWFC Japan では、BBFAW代表のNicky Amos氏も招かれた。金融関係者の参加の少なさはまだまだ日本の投資家と「アニマル・ウェルフェア」との接点の少なさを表していた。

「アニマル・ウェルフェアに関するリスクと機会を捉えることにはノウハウ、資源と時間を要することは理解しています。よって、BBFAWではベンチマークにおけるパフォーマンスを批判するのではなく、企業にスコアリングの仕組みを理解して行動改善できるように1対1のサポートを行っています」とAmos氏は言う。

これまで7回に渡った ベンチマーク結果の推移 を見れば分かるが、欧州企業も徐々に改善してきているというものの、まだまだ最初の一歩から始めなければならない企業が大半を占めている。

まずは海外投資家を中心に、BBFAW対象企業を含め「アニマル・ウェルフェア」を題材とした対話の機会が日本企業にも増えてくるだろう。また、アニマル・ウェルフェアだけでなく、森林伐採や気候変動への影響という観点からも、益々食品、取り分け食肉産業に関連する企業との 対話を求む投資家は増えてくるだろう

周期遅れを取っている日本のように見えるが、アニマル・ウェルフェアに積極的に取り組んでいる個別の家畜農家、ケージ飼育から平飼いへの移行の法的な規制が敷かれた場合の現場に偏った負担への課題等、7月のシンポジウムでも見られたようにボトム・アップの積極的、率直な意見が活発だ。消費者と生産者を直接繋ぐ取組みが増えている日本においては、このボトム・アップの先行事例がアニマル・ウェルフェアの浸透の鍵を握っているかもしれない。
家畜、私たち、そして取り巻く環境の長期的に健康な好循環のために、日本の投資家の役割にも注目していきたい。

<参考にしたRI 記事>
How can investors accelerate company action on farm animal welfare?
by Rory Sullivan and Nicky Amos | March 11th, 2019

ESG Frontiers: Meat: An industry whose impacts are vast: Are meat substitutes the answer to this high emissions sector?
by Paul Verney | July 26th, 2019

AWFC Japan 第4回 国際シンポジウム及びAmos氏のインタビューによる追加調査

第7回BBFAWレポートの日本語要約は、近日中にAWFC Japanのウェブサイトから公開予定です。

ESGの分野で興味があるテーマがございましたら、城田  (yuki@responsible-investor.com)までご連絡ください。
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Photo by Michael Anfang