
Invesco社の調査によると、2025年にはESG投資残高の大半はパッシブ運用されていると予測されている。
最低限の人権基準の遵守などを含み、EUタクソノミーに合わせて既に定められた気候変動関連ベンチマーク指数への規制に加え、サステナビリティに関連した指数ではジェンダーの多様性、ケガや死亡率、サプライチェーンでのデューデリジェンスなどを報告しなければならないとしている。
カナダでは新型コロナウィルスへの懸念によって経済的影響を受けた企業への支援条件としてTCFDに沿った気候変動対応を毎年開示することを求め、英国の年金基金法の中に同フレームワークを内在することが検討されており、国際的なアナリスト資格を提供するCFAにおいてもESG開示基準を導入するためのコンサルテーションを実施している。
こうした傾向を見ていると、その判断に使われるデータは当然重要となることは言うまでもない。
2008年の金融危機以降、各国に点在していたローカルなESGデータ・プロバイダーはM&Aが繰り返され、主要インデックス・プロバイダーとされるMSCI、FTSE Russell、S&P Global、信用格付け会社としてのムーディーズ、投資信託の格付を行うモーニングスターなどにその多くが集約されている。
これにより、数千社、数百ファンドに投資している様な大手機関投資家が、ESG情報を内在した投資判断や投資行動がしやすくなったと言えるだろう。他社情報の掲載や、生のデータ収集に力を入れてきたブルームバーグ社も、自らのESGレーティングを開発したことからも伺える様に、ESGレーティングへのビジネス・ニーズが加速している様に見受けられる。
しかし、この土台が揃うと同時に、大きな地殻変動が起きる前夜に思えてならない。
今や全ての投資家が求め、一見ビジネス・チャンスと見られるESG情報が、様々な形での無償提供が展開されている。データ・プロバイダー自らのサイトで公開することもあれば、台湾のTDCC、マレーシアの証券取引所など、各国取引所や関連会社との連携の元で行われている。
これまでアクセスが無かった人に複数のESG情報が広がる機会が増える一方、現状のデータに全員が満足している訳ではなさそうだ。
先日行われたRI DigiFest 2020に参加されたパナリストが度々言及された様に、既存のESGデータベースに限界を感じ、機関投資家自らがより深堀したセクター別調査を実施するケースが増えている。また、他の機関投資家と協力し、不動産や漁船、鉱山の尾鉱処理など、セクター別の開示フレームワーク及びデータ収集に取り掛かるケースも続々と出てきている。
Partnership for Carbon Accounting Financial (PCAF)の様に、グローバルに統一されたカーボン会計基準作りに機関投資家や銀行自らが取り組む一方で、より個別企業、個別地域に合わせた詳細情報が求められ、既存のESGデータ・プロバイダーの役割が試されている。
既存のデータへの限界を唱える声は、そのデータ構築の中枢に位置した人からも上がっている。ESGデータの蓄積に長く携わり、元KLD、そしてMSCIのESGインデックス責任者を務めていたThomas Kuh氏まで、人海戦術のESG情報収集よりも、AIで収集した方が正確な情報が得られるであろうと述べている。Kuh氏は現在、AIを駆使したESGインデックスを先駆的に開発するTruvalue Labsのインデックス責任者であるため、当然の発言であろうが、現状の課題認識があってのことであろう。
確かに人海戦術はうっかりミスを招くこともあり、IT技術を活用する意義はあるだろう。一方、大きくアルゴリズムが誤作動して、サステナリティクス社のデータに基づいて「ESG優良企業」を開示したつもりのヤフー・ファイナンスの過ちに気付くことが出来たのは、これまでのアナリストの知識によるものと思うと、少々複雑な気分だ。
冒頭の予測が正しければ、パッシブ運用の根幹となるようなESGレーティング情報の基準化と規制が、欧州の次なるサステナブル・ファイナンスの議題に上がってくるのは当然の流れだろう。しかし、機関投資家は同時により実態に沿った具体的なセクター別深堀情報を求めており、単に見た目だけが世界的に統一され、すっきりしたESGファンドを作りやすくなるのでは意味がないだろう。
基準の統一やデータの規制が、果たして気候変動などの課題を実質的な解決を促し、その解決に繋がる情報収集(AIであれ、人であれ)にあたる者の努力を適格に評価する仕組みとなり得るのか。基準そのものよりも、策定に携わる人々の意志と、金融メカニズムの中での本質的な利用目的にその運命が委ねられているだろう。これからの展開に、半信半疑ながらも、性善説の方に賭けてみたいと思う。
【RI Digital: Japan 2020 】
10月28日29日開催 持続可能な『ニューノーマル』の形成
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