

現在、新型コロナウィルスの感染拡大の懸念により直接・間接的な影響により、生活面、経済面における不安や悩みを抱えていること、多々あると思われます。
この地球規模の課題解決が急務なため、サステナブル・ファイナンスやESG課題に関して考える余地がなくなったと考える人もいるかもしれません。
しかし、逆に今こそ、日ごろから研ぎ澄ませてこられた環境や社会課題へのレーダーを活かし、この状況下で生み出されている多くの課題に積極的に取り組まれる企業が増えていることと思います。
では、一見この状況と無縁なESG課題は後回しにするべきなのか。実際、各国の中央銀行が経済にとって最大のリスクとして近年認識が高まってきた気候変動課題でさえ、最大の国家間協議の場であるCOP26の会合を延期することを既に予定しており、関係する法規制の議論もペースが落ちることが予想される。
一方で、近年各国で経験している異常気象とその人的、環境的、資金的な打撃を忘れてはいけないだろう。急速に経済活動及び移動が一時的に制限されることによって、人為的なCO2排出量はその副作用として削減されているだろう。しかし、感染症と同様に社会・企業・経済界に対して警鐘が鳴らされてこられた気候変動課題が、今の状況が収束し、再び経済活動が活発となった時、同様な危機が生じないためにも、スピードを落としつつ対応を考え続ける必要があるかもしれない。
そう思った責任投資関係者は、少なくはなかったようだ。4月1日にRIが主催したEUのグリーン・タクソノミーが投資にもたらす影響を議論したウェビナー『EU Action Plan Series #1: The investment implications of the EU green taxonomy』には、過去最大の1300名がライブ配信に参加し、その後も500名近くが収録版を聴いている。
時差の都合上、日本からの参加者は限られていることを考慮し、今回のコラムでは当ウェビナーでの議論を交えながら、欧州のサステナブル・ファイナンスにおける直近の動向を紹介する。
今回のウェビナーは、今春3部作となっている、欧州のサステナブル・ファイナンスに関するアクション・プラン・シリーズの第一回目となった。2回目は5月13日にグリーン/サステナブルなベンチマークについて、そして3回目は6月3日にEUグリーン・ディールによるリスクと機会を取り上げる予定となっている。
EUのグリーン・タクソノミーは、気候変動の緩和と適応に関連した二つの目標を含み、6つの環境目標から構成されている。汚染防止や生物多様性など気候変動以外の4つの目標は、追って導入される予定だ。よって、今回の議論の焦点となったのは、既に開示されている2つ目標に関してだが、現状では気候変動関連は21年度情報を2022年まで、その他を含めて22年度情報を2023年に企業は開示することが求められている。
現段階では、主要な原則レベルでの法制化が行われているが、今年の後半までには、細かな技術的な部分を含めて法制化される予定である。
<試行錯誤の企業情報開示>
このグリーン・タクソノミーに関する600ページにも及ぶ最終版レポートは先月公表されたばかりであり、これに具体的に沿った開示を行っている企業が少ない現状は当然だろう。
その中で、先行開示事例として、Acciona社、およびSPIE社が紹介された。
アクション・プランのテクニカル・エキスパート・グループ(TEG)の参加メンバーでもある、スペインのインフラ及び再生エネルギー会社のAcciona社は、今年2月に公表した2019年度の財務報告において、93%の投資及び83%のEBITDA(税引前利益+特別損益+支払利+減価償却費)はタクソノミーで定義された「低炭素活動」に準拠すると開示している。その裏には、社内の財務報告を全てドラフト版のグリーン・タクソノミーの細かな業種定義に合わせて構成、計算しており、そこまでの道のりは11月に開示したケース・スタディ・レポートで確認できる。
本レポート9ページ目には、「この一連の作業を通じての教訓」と題された箇所がある。タクソノミーを使うことで気候変動の緩和や適応に向けた新たなプロジェクトを発見するためには非常に有益である一方、欧州委員会が利用した(プロジェクト・ファイナンス寄りの)NACEコードに基づいた分類が使いづらい、タクソノミーに列挙の無い活動の位置づけ方が難しい等の課題点をまとめている。尚、こうしたフィードバックを受け止め、業種分類のマッピングなど、上場企業に向けての利用しやすさの改善に努めていると、同じくTEGに関わり、グリーン認証に携わっているNovethicのNicolas Redon氏は言う。
一方、フランスのエネルギー会社SPIEは、3月に公開した2019年度の財務報告の中で、35%程度の売り上げが気候変動緩和に大きく貢献する活動から算出されていると盛り込まれた。こちらの内容は2020年2月時点でのドラフト・タクソノミーに基づいており、PWCによる第三者レビューを実施しているとされている。
いずれも最終ガイダンスが公表される前の検討及び開示であるため、変わりゆくガイダンスも相まって、その対応方法が大きく異なっている。最終ガイダンスに基づいた場合、今後開示方法が更に統一化されると思われるが、現段階ではRedon氏も言うように、実践による試行錯誤が続くのであろう。21年度情報に基づいた22年開示が求められているが、更なるフレームワークの微調整に異見を反映させるためには、企業としては早々にタクソノミー活用してみる価値がありそうだ。
<基準化する効果と限界:投資家の視点>
では、投資家サイドはこのタクソノミーをどう思っているのか。
第2回目のウェビナーではサステナブル及びグリーンなベンチマークに関して取り上げる予定となっているが、こうしたタクソノミーを利用予定のベンチマーク定義に加えて、金融活動自体もどのようなものがタクソノミーに準じたものか否かも、タクソノミーの中に含まれている。よって、企業だけではなく、金融、投資関係者もこの枠組みに注視して行かなければならないことは確実だろう。
こうした中、責任投資原則(PRI)に署名する欧州・米国・英国・日本からの50の機関投資家は、自らの活動の中にどのようにタクソノミーを内在出来るかを考えるために集結しているという。
まだその50の機関の詳細は公開されてはいないが、長年、環境考慮型の企業選定を行ってきたWheb アセット・マネジメントのリサーチ・ヘッドであるSeb Beloe氏は、このタクソノミーの効果と限界について述べた。
Beloe氏が特に評価している点としては、高排出業種における自社の気候変動緩和・適応に大々的に貢献する経済活動(Substantial Contribution)、そして他業種における緩和・適応を可能とする経済活動(Enabling)の両者に分け、両サイドにおける技術革新を欧州政府が後押しする形の枠組みとなっている点だ。今回のガイダンスで、気候変動の緩和および適応に貢献する経済活動が、その他の環境への大きなマイナスの影響を及ぼさないこと(Do no significant harm)を細かくカバーし強化している点も注視したいところだ。
また、金融業界を含めた統一の枠組みがあることによって、その投融資の機会の恩恵に与りたいと思う企業行動の促進には一定の効果が期待されると言う。
一方、個別の環境技術を具体的にリスト化する手法を基本的にとってきたタクソノミーに対して、限界も感じると言う。こうした技術は日ごとに増え変わるので、欧州委員会の方で定期的にリストを更新しなければ、新しい技術が対象外となることや、既に昨日の技術となったものが乱立する危険性を危惧している。より原則ベースのものとしてタクソノミーをつくり、それに沿った技術の判断はもっと各々の運用者に任せて欲しいと言う。
長年アクティブ運用に携わってきたBeloe氏によるこのような発言は、ある意味当然と言えるだろう。この点に関し、TEGに参加するオランダの年金基金、PGGMでの責任投資シニア・アドバイザーのBrenda Kramer氏は、その懸念を理解しており、随時必要に応じてタクソノミーのリストに含まれる技術をTEGとして更新していく意向を共有した。また、Beloe氏も認める様に、新たにリストに載った技術の中には、より原則ベースのものもあり、こうしたフレームワークが生き物として少しずつ発展・変化していくことが垣間見られる議論となった。
<今と今後の危機を見据えて>
先ほど企業の先行事例として挙げたAcciona社だが、3月23日付で新型コロナウィルスへの会社としての対応を開示している。
スペイン、メキシコ、カナダ、およびカタールにおける病院の運営、1800に及ぶスペイン各地での鉄道の駅での廃棄物処理など、通常運営が不可欠となるものを届けること、また、経済的な影響を鑑み、中小企業における電力費用支払いを半年間延長するなどの取組みなどを挙げている。
地球規模で直面している目の前の課題への冷静で早急な対応と、同様な事態を引き起こさないための近い将来の気候変動への継続的な取り組み。その両方のバランスを、実施部隊としての企業、そして評価、資金投入するファイナンス側の更なる力量が問われる日々となっているだろう。
人の移動が極端に制限されている今だが、各国に点在する従業員、取引先、家族、関係者を多く抱える組織や会社に勤める読者を想像し、通常の財務リターンの枠内に納まらない発想で、今まで以上にグローバルな協力体制での日々が送れることに期待を込めてみたい。
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