アマゾンの原生林伐採問題から思考するESG投資の役割

 

世界が必要とする酸素の10~20%の供給に貢献しているとされているブラジルのアマゾン林が、大規模な火災によって急速に破壊されていることは、各種メディア媒体から既に耳にしている人も多いだろう。

9月4日付のRI記事、「PRI co-ordinating institutional investor statement on Amazon forest fires」で記載の通り、世界のESG投資の動きを代表するPRI(責任投資原則)ではこの問題を受けて、機関投資家の声を代表する共同声明文をドラフトし、賛同機関を募った。

その声明文は、投資家を代表し以下の4点を関連する企業向けに要請している

1.商品ごとに、原生林の伐採(deforestation)をなくすことを掲げた方針の作成と、その実行に向け、全てのサプライ・チェーン及び調達地域における具体的な有期の目標の設定。

2.自社事業およびサプライ・チェーンにおいて、森林伐採のリスク評価、またこのリスクを最低限に留めるための努力とその実行の開示。

3.各社が掲げる脱森林伐採の方針に対し、サプライヤーがそれに準じた行動を取っているかどうかを確かめるための透明なモニタリングと検証システムの導入。

4.各社が掲げる脱森林伐採の方針に対する進捗状況、また森林伐採のリスクの高さと管理状況の年次報告。

この声明文に賛同署名した機関も存在すると思われるが、その決断に至らなかった読者のためにも、少しこの課題の視点を広げていきたい。

森林も生き物なので、その効果を正確に測定する難しさはあるだろう。しかし、世界の10~20%の酸素を供給をしているアマゾン林が、1分でサッカー場1~2つ分の速さで消滅している事態は、気候変動議論に対して懐疑的な意見を持っていたとしても、気になる事実だろう。ブラジルと直接関係がなく暮らしていると感じている人であっても、我々一人ひとりの生きて行く上で必要な資源(=酸素)に大きく貢献していることが分かるからだ。

では、この気になる課題の原因は何か。
その多くは、牛肉・大豆等のための大規模農場を作るにあたり、土地を手っ取り早く開拓するための人為的に焼き畑を行っていることに起因するとされている。極度の乾燥によって自然発生することも少なくないが、人為的に始められた火災が火種となることが増えているという

ブラジルで生産された食肉の多くはブラジル国内で消費され、日本では現在、直接輸入する制度が整備されていない。また、ブラジル最大の輸出産業である大豆は、8割が中国に向かっている。一見すると、日本の消費者や投資家にとって、直接的な関係は無い問題と思われるだろう。ここで、更に一社の食肉加工企業に焦点をあててみる。

ブラジル大手の食肉加工会社であるマルフリギ(Marfrig)社。こちらはエマージング・マーケット投資を行っている日本の投資家にとっては、投資対象企業となっている場合もあるだろう。また、このマルフリギ社は昨年、アメリカで4番目に大きな牛肉加工生産会社、ナショナル・ビーフの買収を行っており、このナショナル・ビーフの第一の輸出先は、実は日本である。こうして深堀していくと、日本の投資家、そして消費者とも、巡り巡って関係のある企業となってくる。

では、単にこのマリフリギ社からの投資を引き揚げれば良いのか。そう単純な問題でもなさそうだ。同社は、「サステナブル移行債(Sustainable Transition Bond)」と銘打って、7月末に社債を発行し、以来議論の的となっている。RIが取材した投資家の中には、次のように皮肉を含め懐疑的な意見は一定数出てきている。『そもそも牛肉産業の拡大は人類にとって持続可能ではないビジネスモデルではないのではないか?』

『森林伐採に寄らないアマゾンでの牧畜」は「クリーンな石炭(Clean Coal)」に負けず劣らず、ESG投資の矛盾単語調に載るべき事態。』

一方で、より好意的に見る投資家が存在するのも事実。例えば、世界でも大手の資産保有機関である教師保険年金協会-アメリカ大学退職年金基金(TIAA)を母体とする運用会社、Nuveenで債券を担当するStephen Liberatore氏は、このような「移行債券」がもっと発行されるべきだと言う。 

当債券は、マルフリギ社が食肉産業を直ちに離れることを促していない。しかし、サプライヤーに対してより厳しい基準を設け、新たな原生林の伐採に繋がらない様、衛生技術を使った家畜の管理を測定方法の一つとして挙げる等、現場の管理と牧畜産業の在り方の移行に貢献しようとしている。

筆者が先日訪れた国でも、一農家レベルでは効率の良い農地再生のための焼き畑、またはより換金性の高い作物のための森林伐採が行われていた。現地の個人の農家の視点に立てば、経済的な発展を夢見る中でそうした行動を取ることを、一方的に批判は出来ないだろう。これらを一夜にして変えることは難しく、現状の行動を禁止するだけでは現地の生活の安定と理解を得られないだろう。そのため、こうした「移行」の一助となる投資は、食肉産業だけでなく、化石燃料産業など、様々な形で必要となるであろう。

アマゾン林と共存しながら、現地の営みを支えるようなビジネス・チャンスはあるのか。今回のマルフリギ社のように「サステナブル移行」を謳った新たな資金調達を行った企業が、その目標通りの行動を取っているのか。他の食肉加工業者との行動の違いはあるのか。また、今回焦点があたっているブラジルのアマゾン林以外にも、似たような現状、改善に寄与できる投資行動はあるのか。

投資行動の解が一つではないからこそ、思考と企業対話(エンゲージメント)を繰り返しながら投資判断に貢献していく。その行動は、AI活用が進む時代の中で人の価値を再認識し、ESG考慮型の投資の醍醐味を味わえる一因となるのかもしれない。

<主に参照しているRI記事>
PRI co-ordinating institutional investor statement on Amazon forest fires
by Daniel Brooksbank | September 4th, 2019

Responsible investors far from bullish on beef-based sustainability bond
by Sophie Robinson-Tillett | July 31st, 2019

Nuveen ESG expert hopes for more sustainable beef bonds as market digests Marfrig
by Sophie Robinson-Tillett | August 22nd, 2019

Analysis: IPCC warning on meat consumption adds to scrutiny of beef producer Marfrig’s $500m ‘transition bond’
by Sophie Robinson-Tillett | August 8th, 2019

岸上有沙によるこれまでのコラム
第一弾:個人から投資まで:加速するプラスチック課題への認識と取り組み

第二弾:動物愛護ではない、人と環境のためのアニマル・ウェルフェア

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Photo by Isabella Jusková