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ひと月の記事から読み解くESGトレンド2019

 

たとえESGやサステナビリティの専属担当者であったとしても、日々の業務とのバランスの中、毎日欠かさずに情報を読み解くことが難しい時もあるだろう。実際、私もこれまで十数年の間、度々その一人となってきた。

2019年最後となる今回のコラムでは、そんな方のために、Responsible Investorが11月に掲載した約80の記事全て*から見た、過去一ヶ月、そして2019年の傾向を紹介することとする。

まず、E、S、G、の分野の傾向だが、驚く人はいないだろうがその大半がE、中でも気候変動に関連した議論や活動に言及している。その壮絶な議論は後程紹介するが、まず先に、特に日本が弱いとして見られてきた、国際視点での「S」の分野から着目したい。

どの企業のサプライチェーンにも必ず存在する、奴隷問題

中でも「人権」課題に関する懸念と取組みの加速を感じる記事が多くなっている。フランス、オランダなど、サプライチェーンにおける人権に関するデューデリジェンスの実行を義務化する法整備が欧州各国で進められており、2020年にはドイツも同様の義務化を検討しているという。

その裏には、企業の掲げる精神と実態の間にまだ差が大きいという課題があるだろう。

Corporate Human Rights Benchmarkでは、人権リスクが高いとされる4つのセクター(農業製品、アパレル、採掘、電子機器製造)でのグローバル最大手200社を対象に調査を実施した。その結果、94%が少なくとも自社従業員においては、基本的な労働基準を尊重するコミットメントがあると確認された。一方で、それに加えてデューデリジェンス、非コンプライアンスへの対応などを総合的に評価した結果、平均スコアはわずか24%となっている。また、今デューデリジェンスの法制化を検討しているドイツにおいては、最大手20社のうち、こうしたデューデリジェンスのプロセスが確認された企業は一社も無かったという、厳しい結果だ。どうやら課題としているのは、日本企業だけではない様だ。

しかし、興味深いのは、2.4兆英国ボンドの資産高を代表する投資家イニシアチブ、「Find it, Fix it, Prevent it」の設立だ。英国の「現代奴隷法」は英国で事業を展開している企業では、耳にしたことはあるだろう。しかし、「現代奴隷」が本当に存在するのか、現実味を帯びないでいる人も同じだけいるのではないだろうか。

世界で2,500万人ーつまり、オーストラリアの全人口以上ーが何等かの方法によって強制労働を強いられている現状の中、当位イニシアチブを先導する投資家、CCLAのCEOのPeter Hugh Smith氏は「これは極東のスウェットショップの話だけではない。これは英国農産業にいる人々のことだ。人身売買をも意味する。」と、他人事ではないことを強調した。

また、グローバルで最も気候変動への影響が高いとされる100社以上の企業とのエンゲージメントを行うClimate Action 100+のイニシアチブと同様、効果的なエンゲージメントを当イニシアチブで達成したいという。その前提の中で、同CCLAの責任投資担当者のJames Corah氏は、「現代奴隷は全ての企業のサプライチェーンのどこかに存在していると強く信じている。そのため、サプライチェーンの中で現代奴隷を見つけた、と回答する企業が(むしろ)正しい」と述べている。どれだけ正直に奴隷の存在を認め、改善に向けた努力をする企業を評価できるか、今後企業と投資家双方の力量が問われて来るだろう。

 

肥満対策に“STOP”ラベル

もう一つ気になるトレンドは肥満問題と飲食品へのより厳しいラベリング方法に関する法規制の導入だ。2016年のチリに始まり、ウルグアイ、イスラエル、そしてメキシコが導入し、現在カナダとブラジルが導入を検討しているという。9月に導入されたメキシコの制度では、黒の八角形のラベルにおいて、砂糖、飽和脂肪、塩、カロリーが特に高い製品への危険信号を表示するものとなる。ラベリングは消費者が考えて選択する手段を増やすため、企業のESG行動を推し進める一つの担い手にもなり得るだろう。いずれにしても、こうした動きは各国で活動する日本の企業と、そこに投資する側に無縁ではない動きと言えるだろう。

 

ガバナンス:規制当局の役割

ガバナンスは、言うに足らず、根底にあるものとして認識されているためか、とりたててガバナンス関連に着目した記事は少ない様だ。あえて言うのならば、各国の規制当局の役割を疑問視する記事が挙げられるだろう。

その一つには、日本の「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案」において、特定の業種において、事前届出が必要となる投資家を上場会社の株式取得の閾値を10%から1%に引き下げたことに対する、外国株主の懸念を代表したACGAの声だ

一方米国では、米国証券取引委員(SEC)が、議決権行使助言会社の助言内容をカバーしたレポートの内容を、投資家の手に届く前に必ず2度企業側が確認し、また反論がある場合はその内容の開示を求めることを勧め、物議を醸している。投資家からの不満のみならず、SEC内でも意見が分かれていることが今年の夏以来度々取り上げられている。

一見ESG投資と無縁のこの議論だが、長期視点の投資家として、企業へのエンゲージメントを勧めるPRIの原則や各国のスチュワードシップコードが存在する中、助言レポート内容を確認する時間が更に短縮されることによる有効な対話の機会が懸念される要因となっている。このSECと議決権行使の課題は、今に始まった議論ではないので、2020年も引き続き追っていくことになるだろう。

さて、残すは今年「E」と同義語の様に扱われてきた気候変動に関連した動きだ。なるべく多くの記事とその多様さを理解して頂くため、少し乱筆ながらにまとめさせて頂きたい。

 

気候変動リスクを認識する各国中央銀行

まず一つに、各国の中央銀行が取り組んでいる様子から、気候変動が経済にもたらすリスクの可能性を無視できなくなってきていることが改めて伝わってくるだろう。国のよってその関わりの濃淡は現在のところかなりあることは否めないが、全体的な方向性は一つであることは伺える。

オランダ中央銀行は中でも特に積極的であり、Platform for Sustainable Financeというプラットフォームを立ち上げ、その中に8つのワーキングループを掲げた。その中の一つであるPartnership for Carbon Accounting Frameworksは9月ニューヨークで行われたClimate Weekで紹介され、8つの米国の銀行を含む50の銀行が参加するグローバルなイニシアチブとなっている。より広いスペックで掲げられ、同様に最近立ち上げられた責任銀行原則(PRB)との連携が気になるところだ。

一方、スウェーデンの中央銀行、Pitsbankが、気候変動への対応が弱いことを理由に、オーストラリアのQueensland、Western Australia、Albertaへの準国債投資を引き揚げる決断を下した。また、地域統括として、欧州中央銀行においては、ユーロの銀行セクターにおける気候変動関連の移行リスクを試すための分析フレームワークの開発に当たっている。

この流れには日本も無縁でなく、日本の中央銀行である日銀も気候変動は金融の安定に影響を及ぼすものとして、51ヶ国目の参加者としてNetwork for Greening the Financial System (NGFS)への参加を表明した。また、国としてパリ協定からの離脱宣告をしている米国だが、その中のアメリカの連邦準備銀行でさえ、NGFSへの参加を検討しており、その活動を支持しているとの言及が得られている。

 

気候変動対策に試行錯誤する関係者

気候変動への取り組みが必要という共通認識はあるが、その方法、そして各組織の位置づけを決めるには企業、投資家、そして大学も悩んでいることが伝わる一ヶ月でもあった。

その顕著な例として、歴史古き大学として知られるケンブリッジ大学に所属する3人の学者が発表した新しいペーパーが挙げらる。本論文は、気候変動についてダイベストメントかエンゲージメントか、どちらの手法を取るべきかを問うものとなっているが、結論はなく、読者が決めるものとなっている。その著者の一人、Ellen Quigley 氏はケンブリッジ大学のCFOに対する責任投資アドバイザーも務める。本ペーパーは当大学新任のCIOとCFOとの対談から始まっているが、前任のCIOと当時の投資チームが「学生からの気候変動に関する強まるプレッシャー」を背景に退いたとされる中、今後の大学資産の運用議論としては興味深い動きだろう

気候変動議論の中で避けて通れない化石燃料関連会社だが、そうした企業に対する最終的な方向性が一つであっても、細かな案件に関しては未だ投資家の中で意見が分かれている。その一例として、先日行われたBHPへの株主提案に対する賛否の結論だ。パリ協定への反対姿勢を明らかにしている業界団体への参加を辞める様、訴える内容のその提案は、Church of England Pension Board (CEPB), Actiam 及び MP Pensionsと言った、CA100+の署名機関であり、株主の30%が賛成というまずまずな結果となった。

しかし、同じCA100+署名機関であり、BHPへのエンゲージメントを中心的に行うリード・インベスターであるHSBC Asset ManagementやCalSTRSは反対票を投じた。賛成票を投じなかった理由としては、業界の中では積極的な企業であり、ロビー活動の監督と透明性、そして業界団体への参加のレビュー・プロセスとその結果の開示を行っていることを挙げている。業界の中での相対的な評価に値するかもしれないが、同社が2017年にレビューを行い、2018年にWorld Coal Association離脱を決定した背景には、同様の株主提案があり、現在評価を得ている行動はかつての賛成票の力があったと言えるだろう。

最後に取り上げるジレンマとして、金融セクター自体の行動と評価である。Black Rockなど、世界最大手の運用会社は、当然ながらに担える役割が大きい。サステナブル投資に関するより明確な投資方針が掲げられるようにと、Institute of International Financeが提案している新たな3点のサステナブル投資の分類を支持する他、ヨーロッパで初とされるESG High Yield Bond UCITsのETFを立ち上げている。また、Black Rock CEO及び会長のLarry Fink氏は以前より、投資対象となる上場企業に対し、気候変動など特定のE、S、G課題の重要性を訴える手紙を公開し、行動を促している。一方で、そのような姿勢と、実際の行動が伴っていないという批判もある。先述のBHPのような企業だけでなく、Black Rockも一つの投資対象として、気候変動に関連した行動に一貫性が無いとして、一部の投資家が株主提案を検討しているという。

 

編集後記 

これでもまだ11月に掲載された議論の半分程度であり、提供したい情報はまだ山ほどある。また、こうして一ヶ月分を考察している間にも、着々と更に最新の動きに関する情報が入って来る。毎日のように新しい基準、基準をまとめる基準が各業界、各国、各地域で検討、立ち上げられ、時にはめまいがしてしまいそうな情報と進展の速さに、担当者に同情する想いが出てくるのも確かだ。 

今回はあえてその目まぐるしさを共有するため、まとめ記事のコラムとさせて頂いたが、その迷路は迷路のために存在するのではなく、上述のように実質的な課題としての肥満、強制労働や気候変動などへの取り組みを確かにするためにあることを、忘れてはいけないだろう。

そんな一見の迷路の中から実質課題をテーマとしてピックアップし、少しばかりの整理に貢献が出来ればと思い、今後も毎月少々のお時間にお付き合い頂けたら有難い。

少し早いですが2019年最後のコラムとして、2020年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

*国別特集レポートに関する掲載は、11月記事分析の対象外としております。

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