

はじめに
GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)という組織をご存じだろうか?今秋にグラスゴーで開かれるCOP26に先立って今年4月に設立された組織で、ネットゼロを目指すグローバル金融業界の最前線とも言える場所だが、まだ日本の金融業界での知名度はそれほど高くないようである。筆者はロンドンに駐在しながら、このGFANZのステアリンググループ会議にアジアを代表する形で参加しているため、この動きを伝えることで日本の金融業界のネットゼロに向けた取組みの一助となるべく、本稿を記すこととした。
今年6月に公表された金融庁の有識者会議報告書にこのような記載がある。
「各社自身の取組みのみに拠るのではなく、多様な組織から構成される国際的な取組みへ積極的に参画することも有益である。投資家の取組みを支援する国際的な取組みは複数存在し、特に企業の脱炭素化の支援を目的とする活動が活発化している。」
そして、その例としてNet-Zero Asset Owner Alliance (NZAOA)、Net Zero Asset Managers Initiative (NZAMI)、Net-Zero Banking Alliance (NZBA)などが紹介されているが、GFANZはこれらのアライアンスをさらに束ね、グローバルな金融業界が一体となって協調していくための枠組みである。
本稿はこのGFANZなどのアライアンスの紹介を主題とするが、その意味合いを理解する助けとするため、前段としてグローバル金融業界を取り巻くトレンドに関する筆者の理解も紹介させていただきたい。(なお、本稿の記載内容は筆者個人の見解であることをお断りしておきたい)
グローバル金融業界を取り巻く5つのトレンド
筆者は、ネットゼロを目指すグローバル金融業界には5つのトレンドがあり、そのトレンドはパンデミックが始まって以来のこの1年で急激に加速している、と理解している。
(トレンド①:長期コミット→中間目標設定) (トレンド②:欧州→その他地域)
国レベルのGHG排出削減目標の話であり、多くの方がご存じだと思われる。日本もトレンド②の流れに乗って昨秋に2050年のネットゼロ宣言、今春に2030年までのGHG削減目標設定をしたのは記憶に新しいところである。
(トレンド③:国レベル→金融業界)
個別の金融機関のネットゼロ目標などがニュースになることもあるためご存じの方も多いだろう。例えば、筆者が所属する第一生命は今年3月に、2050年までの投資ポートフォリオのネットゼロ宣言を行い、中間目標を設定することを公表した。また、MUFGは今年5月に「カーボンニュートラル宣言」を行い、2050年までの投融資ポートフォリオのネットゼロ宣言などを行った。これらのような個別のニュースも、このような大きな文脈のなかに置くとその意味合いが理解しやすくなる。
(トレンド④:自社オペレーション→バリューチェーン・エンゲージメント)
金融機関のネットゼロに向けた取組みは、自社のGHG排出削減(=スコープ1,2)と、バリューチェーンのGHG排出削減(=スコープ3)の2つに分けて考えられる。後者には投融資先企業や保険引受先企業などが含まれるためそのインパクトは非常に大きく、金融機関にとっての本丸は後者ということになる。ただし、他社にエンゲージする前にまずは自社がしっかりと取り組んでいる姿を見せることも重要であり、トレンドとしては「自社→他社」になっている。
(トレンド⑤:個社の取組→アライアンス)
アライアンスについてはまだ日本での認知度が高くないのではないかと感じているが、グローバルに見ればまさに現在進行形で大きく動いている流れである。この点はまさに本稿の主題であり、詳細を次章に記載するが、結論から言うと筆者は、グローバルな大きなトレンドとしてはこのアライアンスの流れは早くもティッピングポイントを超えつつあり、このトレンドが日本に「来るかどうか」ではなく「いつ来るか」が論点であると考えている。
GFANZと傘下の各アライアンス
GFANZ傘下の主要4つのアライアンスのうち、最も歴史の古いNZAOAでも2019年9月の設立であり、その他の3つはこの1年以内に設立されたものである。GFANZも今年4月に創設されたものであり、この分野の取組みが急激に加速していることが見て取れる。
すべてのアライアンスの名前に「ネットゼロ」が入っていることからも分かる通り、これらのアライアンスはGHG排出のネットゼロを共に目指す企業等の集まりであり、必然的に参加組織自身もネットゼロに向けた取組みにコミットすることになる。GFANZはこれらのアライアンスを束ねる傘のような役割を担っており、その狙いは、金融業界内の垣根を越えてさらにまとまることで、そのインパクトを最大化していくことにある。
ではアライアンスに参加することのメリットは何か?自明なメリットは、アライアンスの目的そのものではあるが、アライアンスに参加して他社と共に行動することで、個社では難しかった大きなインパクトを与えることができるという点である。
それ以外にも2点ほど個社としてのメリットがあると考えられる。1点目は目標設定の客観性・透明性を高めるという点である。各アライアンスでは目標設定手法などの統一化に向けて取組んでいるため、グローバルで共通のプラットフォームに参加することで、第三者から見た時の客観性・透明性を高めることができる。2点目は、ネットゼロを目指すグローバル金融の最前線の情報にアクセスできるという点である。例えばGFANZでは6つの分科会に分かれて具体的な論点についての議論が始まりつつあるが、このような議論の動向を理解した上で自社の取組みに反映していくことは、個社にとっても、さらに言えば日本の金融業界全体にとっても有益だと考えられる。
ではGFANZの加盟状況はどのようになっているだろうか。
上図から、現時点での参加組織は欧州勢が中心であることや、一方で加盟数が急速に拡大していることなどが見てとれる。日系企業はまだ5社と多くはないものの、今後拡大していくことが予想される。
筆者が特に注目しているのは米国の動向である。バイデン政権誕生以降、気候変動取組みの加速に大きく舵を切ったのは周知のとおりであるが、NZBAにバンク・オブ・アメリカやシティ・グループという世界最大規模の銀行が参加したことや、NZAMIでもブラックロック、バンガード、ステート・ストリートといった世界最大規模の運用会社が名を連ねていることから、まさに潮目が変わりつつあると感じている。先述の通り、日本の金融業界にとっての論点は、この流れが「来るかどうか」ではなく「いつ来るか」になってきているということだろう。
おわりに
本稿ではGFANZおよびその傘下のアライアンスについて簡単にご紹介させていただいた。第一生命グループは、GFANZの中でも全体を牽引する役割を担うCEOプリンシパルグループという18社の集まりにアジアを代表する形で参画しており、筆者はその枠組みの中でGFANZのステアリンググループ会議に参画している。その立場からすると、少しでも多くの日本の金融機関の皆さまが今回ご紹介したアライアンスに関心を持っていただき、加盟を検討していただけると何よりの幸いである。その際にもし筆者にお役に立てることがあれば喜んで力になりたいと思っているため、是非お気軽にご連絡いただきたい。
牧内秀直
第一ライフインターナショナル・ヨーロッパ 社長
GFANZ ステアリンググループメンバー
お問い合わせ先
日系企業が見る国際アライアンス加盟の意義とその背景 シリーズ②
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