対話の先にある果実

岸上有沙氏による2020年ESGニュースアップデートシリーズ。

株主提案や複数の機関投資家による目的ある対話の対象と聞いて、身構える企業も多いだろう。勿論、中には打開策を見出せない様な極端な働きかけもあるだろう。しかし、一見対立関係にある様な働きかけが、企業役員の賛同を得ることや投資家サイドの評価を得る行動に繋がることもあり、気候変動関連を中心にその実例が少しずつ出てきている。

世界最大規模のエンゲージメント活動、CA100+

 その一つとして、世界47兆米国ドル、500以上の機関投資家が参加しているClimate Action 100 + による対話だ。欧州(IGCCC)、米国(CERES)、オーストラリア(IGCC)、アジア(AIGCC)のそれぞれの地域での機関投資家による気候変動イニシアチブを取りまとめる各団体が事務局となり、地元投資家と国際投資家が連携して世界最大のGHG排出をもたらすとされる100以上の企業との対話を行っている。 

アジア諸国の地元投資家によるESG関連の内容に関する企業への目的ある対話の歴史は浅いが、その中で台湾での大手電子機器製造会社、Hon Hai Precision (Foxconn) の対応が注目を浴びている。日本を含む各国に拠点を持ちサービスを提供しているこの会社は、CA100+からの問いかけがきっかけであることを明確にした上で、1.気候変動に関するガバナンスを強化すること、2.バリューチェーンにおけるGHG排出に対して行動を起こすこと、3.TCFDのレコメンデーションに沿った情報開示を行うこと、そして2050年までにGHG排出のネット・ゼロを目指すことを掲げている。夏の時点にデューク・エナジー、ドミニオン、サザン・カンパニー等の米国企業での同様のネット・ゼロ宣言という成果に次ぐ形となる。コミットメントの先に実現に向けた具体的な行動の確認が必要であり、まだ最初の一歩ではあるが、アジアにおけるCA100+対話の目に見える変化と言えるだろう。

 

企業の自主行動を引きだす株主提案?

一見より強気の行動事例と思われるのが、世界の子供の生活改善を主目的とした英国のThe Children Investment Fund (TCI)による株主提案だ。スペイン政府が現在51%の株を保有する航空インフラ整備会社、Aena社に対し、次ぐ大株主であるTCIは気候変動への戦略を強化することを提案し、結果的には取締役会自体が支持に回ったケースだ

この事例は、二つの特徴がある。一つは、この株主提案がSay on Climateというイニシアチブの一貫であるということだ。これまでに7つの企業に対し、1)毎年の排出量の開示、2)排出量管理の計画、そして3)その計画内容に関する年次総会で投票を行うことが提案の共通骨組みとなっており、CDPのデータを活用されている。TCIはあくまで火種役であり、ゆくゆくは企業自らが率先して同内容の議題を提案すべきと述べているが、この7社を始め、同様の内容を実践に落とし込んで行く企業の動向を引き続き観察されたい。

もう一つの特徴は、国を超えた関連会社への影響である。行動にコミットしたAena社はロンドン・ルートン空港を51%保有し、またヒースロー空港を25%保有するスペインの建設会社の大株主でもある。Aena社自体やスペイン国内だけではなく、関係会社や英国に位置する空港の気候変動対策にも巡り巡って(好)影響を及ぼす可能性もありえるだろう。それも見越してのTCIによる株主提案であったかどうかは定かではないが、ノルウェーの年金基金(GPFG)に代わり運用を実践するNBIMが投資先企業の「本当の持ち主」を解明する調査委託を実施する意向を示すなどの流れを見ると、いずれにしても企業の所有関係と取組みに着目することが伺える。

行動の質、問われるは投資家サイド

「サステナビリティ」を考慮した行動の評価を受けているのは投融資対象だけではない。

日本のサステナブル・ファイナンスや投資への取り組みがまだ発展途上と意識する傾向にあったが、先進的と思われる欧州を含む各国機関に対しても厳しい評価が続いて公表されている。

オランダのサステナブル投資フォーラムであるVBDOによると、自国の年金基金のうち、44%が責任投資方針に沿った運用が出来ていないと言う

40か国の中央銀行や監督機関においてサステナブル・ファイナンスへの取り組みが強化されている一方、新型コロナウィルスによる経済危機への救済の一貫で明確にサステナビリティの視点を盛り込んでいるのはフィジ―の一か国のみであったと、ロンドン経済大学の調査は明かしている

 E3Gの調査によると、コミットメントを掲げているにも関わらず、パリ協定に完全に準じた行動を取れている多国籍開発銀行は一つもないと結論づけている。

過渡期である現在、同じ現状を観察する上でも改善を評価するのか、それとも不足部分を指摘するのか、意見が割れやすい時期と言えよう。いずれの場合においても、コミットメントに準じた行動の有無が資金の出し手・受け手双方において益々問われ、その行動に深さを高め合う上で、対話の仕方、行う意味、中身や結果が益々重要になってくるだろう。